子ども達の体験格差を埋めるには?

 

千葉県で学童支援員として勤務している60代の男性からのご相談を受けました。
学童保育の現場において、子どもたちの家庭環境や経済状況の差が大きいと感じる場面が増えているとのことです。
中には、週3回ほど塾やプールなどの習い事に通っている子もおり、本人の意思とは関係なく通っている様子が見られることもあります。
また、長期休暇には国内外へ旅行に出かけることが当たり前のようになっている家庭の子もいます。
一方で、習い事に興味があっても家庭の事情により通えない子もいます。
経済的な理由やひとり親家庭などの背景があり、放課後は週5日、学童の閉室時間まで過ごしている子も少なくありません。
こうした状況を踏まえ、特定の子どもに配慮し、塾や旅行といった話題は子どもたちの前ではできるだけ出さないよう心がけているとのことです。
しかし、子ども同士の環境の違いがある中で、どのような関わり方が望ましいのか悩んでいるというご相談です。
(※2025年10月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

広がる体験格差、子ども達とどう関わったらよい?

認定NPO法人キッズドア理事長・渡辺由美子さんの見解です。
ご相談者が感じている違和感は、現場の実情として十分に理解できるものです。
現在、子どもを育てる家庭の間で格差が拡大している傾向が見られます。
国民生活基礎調査のデータをもとに、子どもがいる世帯の所得状況を1990年と2021年で比較すると、1990年は年収500万~550万円の層が最も多くを占めていました。一方、2021年では1200万~1500万円の層が最多となっています。
この変化の背景には、共働き世帯の増加があります。
仮に1人あたりの収入が500万円であっても、夫婦2人で働くことで世帯年収は1000万円規模になります。
その結果、ひとり親家庭などの単独収入の世帯や、もともと収入が低い世帯との間に差が生じやすくなっています。
また、2021年における子どものいる世帯の所得中央値は710万円であり、全世帯の中央値である423万円を287万円上回っています。
この点からも、子育て世帯の中には比較的高収入の家庭が増えている状況がうかがえます。
経済的に余裕のある家庭では、塾や習い事への参加、長期休暇中の旅行など、さまざまな経験の機会を子どもに提供することが可能です。
教育や体験への支出が積極的に行われるほど、子ども同士の経験の差はさらに広がっていきます。
一方で、外からは見えにくいものの、物価の上昇により日々の生活にも影響を受けている家庭が存在します。
例えば、食料品の値上がりによって家計に余裕がなくなるケースもあり、長期休みに子どもを外出や旅行に連れて行くことが難しい家庭もあります。
さらに、夏休みなどに子どもが自宅で過ごす時間が長くなると、冷房費などの光熱費の負担が増えるため、できるだけ開所時間いっぱい学童保育を利用せざるを得ない家庭もあります。
このような事情から、学童で長時間過ごす子どもがいる背景には、単なる生活スタイルではなく家庭の経済状況が関係している場合もあるのです。

身近な大人ができる「体験」の届け方とは

キッズドアが2024年に生活に困難を抱える家庭を対象として、夏休みに予定しているアクティビティーについて調査を実施したところ、「特に予定はない」と回答した家庭が52%と最も多い結果でした。
近年、「体験格差」という言葉が注目されていますが、さまざまな経験は子どもの成長に大きな影響を与える大切な要素です。
新しい体験は、日々の学習への意欲を高めるきっかけにもなります。
また、コロナ禍以降、宿泊学習や校外活動など、学校教育の中で実施されてきた体験の機会が減少しているとも言われています。
家庭で多様な経験の場を用意できる場合は補うことができますが、そうした環境にない家庭との間で経験の差が広がりやすくなっているのが現状です。
このような状況の中で、ご相談者のように子どもに関わる立場の方や、地域で子どもと接する機会のある大人にも果たせる役割があります。
その一つが、自身の経験を子どもたちに伝えることです。
例えば、高校や大学で学んだこと、これまで勤めてきた職場や仕事内容など、ご自身の歩んできた道のりを話すだけでも十分価値があります。
大人の実体験に触れること自体が、子どもにとっては貴重な学びの機会になります。
特に、困難な家庭環境にある子どもの中には、社会で働く姿を身近に感じる機会が少ない場合もあります。
大人の話を聞くことで将来のイメージが広がり、新たな興味や関心が芽生えるきっかけになることも期待できます。