出生率2.95「奇跡の町」では何が起きている?

岡山県の北部に位置し、鳥取県との県境に接する奈義町(なぎちょう)は、人口約5,500人の小さな町です。
子育て支援に積極的に取り組んだ結果、2019年の合計特殊出生率は2.95を記録し、「奇跡のまち」として全国的に話題となりました。
そんな奈義町では現在、町全体で英語教育の充実に力を注いでいます。
(※2024年12月13日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

奈義小学校の英語教育「ALTとともに学ぶ授業」

2024年11月9日午後、奈義小学校の3年2組では英語の授業が行われていました。
児童19人のクラスには、女性の担任に加え、6人の外国語指導助手(ALT)が参加していました。
授業中、ALTの一人が「How are you today?」と問いかけると、多くの子どもたちが「はーい!」と元気よく手を挙げました。
そのうちの一人の女の子が指名され、「I feel hot」と自信を持って答えました。
奈義小学校には全校で290人の児童が在籍しており、各学年に1人ずつ、合計6人のALTが配置されています。
「現在、週1回の英語授業には、全学年で6人全員が参加しています」と加治裕代校長は話します。
これにより、奈義小学校では非常に充実した英語教育が行われています。

英語が身近な存在に。奈義町の教育現場で広がる英語学習

奈義中学校(全校生徒139人)で1年生の英語を担当する佐藤大介教諭は、「生徒たちの文法ミスが減ってきました」と手応えを感じています。
生徒たちも「英語への苦手意識がなくなり、少しずつ話せるようになってきた」と自信をのぞかせます。
今では、校内で英語が飛び交う光景が日常の一部となっています。
さらに、奈義町ではこども園(0歳児から5歳児までの園児221人)でも英語教育を導入しており、3~5歳児には3人の外国語指導助手(ALT)がついて英語を教えています。
ALTが英語の絵本を読み聞かせたり、公園で一緒に遊んだり、ダンスを楽しんだりすることで、子どもたちは遊びの中で自然に英語に親しんでいます。

「幼児期から200時間以上の学習機会を確保」奈義町の先進的な英語教育

一般的な公立学校では、小学3年生から週1時間の英語授業が始まります。
しかし、奈義町ではこども園の3年間と小学校1・2年生の期間を合わせ、合計200時間以上の英語学習を提供できるよう計画しています。
また、町に配置されている12人の外国語指導助手(ALT)はすべてフィリピンから招かれた20~30代の女性です。
彼女たちは現地で小学校教諭の資格を持ち、実務経験があることを採用条件としています。

ALTが学校生活に溶け込!?奈義町の英語教育の大きな特徴

ALTは1日8時間勤務し、朝は日本人教諭とともに校門に立ち、児童・生徒にあいさつをします。
さらに、給食の準備や掃除も一緒に行い、学校生活のあらゆる場面で交流を深めています。
奈義中学校で教えるレニータさん(28)は、「生徒たちの顔や名前を覚え、自然に会話ができるようになりました」と話します。
文部科学省のデータによると、昨年度のALT配置割合は全国平均で、公立小学校では1,000人あたり2.9人、中学校では2.7人でした。
都道府県別(政令指定都市を除く)では、小学校で最も多いのは宮崎県の6.7人、中学校では高知県が7.6人と、全国でもALTの配置には差があることがわかります。

奈義町の手厚い英語教育。全国平均を大きく超えるALT配置

奈義町では、小学校は児童48人に対して1人、中学校は生徒46人に1人、こども園では園児44人に1人の割合でALTが配置されています。
これは1,000人あたりに換算すると20人以上となり、全国平均を大きく上回る水準です。
奈義町の英語教育スーパーバイザーを務める同志社大学グローバル地域文化学部の坂本南美准教授は、「生徒数に対するALTの配置数では、私が知る限り奈義町が日本一です」と語っています。

「英語が当たり前の町へ」 奈義町の挑戦と広がる影響

奈義町の和田潤司教育長(66)によると、奥正親町長が「英語移住」で注目を集めた茨城県境町を視察し、「これは面白い」と感じたことがきっかけで、昨年2月ごろから準備を進めてきたそうです。
町では、英語だけでなく人とのコミュニケーション自体が苦手な子どもも多いといいます。
「英語をしっかり学ばなければ、グローバル社会で取り残されてしまう」という危機感が、取り組みを後押ししました。
今年度、奈義町がALT関連に充てた予算は約8,000万円で、教育費全体の6%を占めます。
当初、高齢者からは「子どもばかり優遇されている」との声もありましたが、最近では「せっかくなら自分たちも英語を学びたい。参加の機会を作ってほしい」という意見も増えているそうです。
町内の子どもたちは進学を機に地元を離れることが多いですが、「たくさんの良い思い出を持ち、いつか故郷に帰りたいと思ってほしい」と和田教育長は期待を寄せています。