自然の中で子どもを育てる「森のようちえん」が広がりを見せています。この取り組みは団体によって形態や内容が異なりますが、その共通する特徴や、子どもの成長において期待される効果、そして注意すべき点について、上越教育大学大学院で幼児教育を専門とされる山口美和教授に伺いました。
(※2024年11月26日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
広がる「森のようちえん」その魅力と課題
「森のようちえん」は、自然の中で過ごす時間を大切にし、幼少期の子どもを育む子育て・教育スタイルの総称として広く知られています。
その発祥はデンマークと言われており、ドイツや北欧諸国、さらには韓国でも盛んに取り組まれています。
日本では1970年代から80年代にかけて各地で活動が始まりましたが、ここ15年ほどでその数が急激に増加している印象です。
運営形態は多様で、幼稚園や保育園のように日中保育者が子どもを預かる形態のほか、保護者が主体となる共同保育や自主保育、さらには週末限定のイベント型など、さまざまな形で展開されています。
子どもの主体性を尊重する森のようちえんの特徴
自然との関わりを大切にする以外にも、「森のようちえん」には共通した特徴があるそうです。
それは、子どもの自発的な遊びを重視し、生活そのものを子どもと一緒に作り上げるという考え方です。
具体的には、大人が遊びを主導するのではなく、子どもたち自身の中から生まれる試行錯誤の過程を保育者が一歩引いた立場で見守ります。
また、スケジュールも子どもと話し合いながら決めることで、子どもの自己決定を大切にしています。
森のようちえんが育む「非認知能力」の可能性
森のようちえんで育てることで、子どもたちにはどのような力が身につくと期待されるのでしょうか。
主に「非認知能力」が育まれると考えられています。
非認知能力とは、根気強さや意欲、自信といった、生きる上での土台となる力を指します。
こうした力は、遊びを通じてやりたいことを存分にやり切る経験を重ねる中で、特に幼少期に培われていきます。
過去には、森のようちえんと既存の園を卒園した小学2年生を比較し、非認知能力の中でも「レジリエンス(回復力)」と「自尊感情」に注目して研究した事例があります。
その結果、森のようちえんで育った子どもは、思考が柔軟で、困難な状況でも立ち直る力が高い傾向が見られました。
また、自分を否定的に捉える割合も少ないということが明らかになりました。
子どもの成長を支える保育者の見守りの姿勢
保育者の「見守り」という姿勢は、確かに重要な役割を果たしているようです。
しかし、見守るという行為は単に「見ているだけ」とは異なります。
子どもの心情を尊重し、手や口を出さないことが基本となる一方で、子どもが自発的に気づけるよう環境を整えたり、さりげなく声をかけたりといった積極的な援助も多く含まれます。
このような見守りを行うためには、子どもの成長を長期的な視点で見通す力や、発達過程についての理解、さらには子ども一人ひとりを深く理解する姿勢が求められます。
保育者の見守りは、子どもの成長を支える上で欠かせないものと言えるでしょう。
森のようちえんが直面する課題と現実
森のようちえんには、どのような課題があるのでしょうか。
まず、小学校への適応が懸念されることがあります。
非認知能力の調査と同じ研究で、小学1年生の時点での状況を尋ねたところ、登校を嫌がる傾向が森のようちえん出身の子どもに強く見られました。
現在の小学校は非常に規律的で、子どもが自己決定できる場面が少ないため、森のようちえんで育った子どもたちが特に戸惑いを感じる場合があると考えられます。
ただし、現場の保育者らによると、次第に折り合いをつけて適応できる子どもも多いそうです。
また、金銭面での課題も指摘されています。
多くの森のようちえんが認可外保育施設として運営されており、国からの補助金を受けられないため、経営が不安定な場合が少なくありません。
幼児教育・保育の無償化が進む中で、保育料がかかる、あるいは他の施設よりも高額であることも課題です。
自治体から認可を受けた施設であれば補助金を受けられるものの、そうしたケースはまだごく少数にとどまっています。
森のようちえんを選ぶ際に保護者が注意すべき点
森のようちえんを検討する際、保護者が注意すべきポイントとは何でしょうか。
森のようちえんという名称を使うこと自体に制約はなく、多種多様な園が存在しています。
そのため、各園の成り立ちやフィールドの管理状況などをよく確認することが大切です。
まずは実際に足を運び、体験してみることをおすすめします。
また、森のようちえんでは、保護者に一定の負担が求められることもあります。
例えば、お弁当作りや、子どもが毎日泥だらけになって帰宅することで大量の洗濯物が出るといった点です。
こうした負担を覚悟した上で、その園の教育方針に共感し、納得できるかどうかを十分に考えた上で選ぶことが必要です。