(※2024年7月2日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
運営費と人材の壁に挑むモンテッソーリ教育の現場から
運営費の確保や人材不足、「学校」としての認定に関する課題に直面しています。「溶けてきた!」「液体になった!」と歓声を上げる子どもたちの周りでは、卓上コンロで熱せられたロウやスズが煙を立ち上げていました。
「宇宙と地球の誕生物語」をテーマにした授業では、気体や液体の話が出るたびにコンロに火が灯され、また、宇宙の冷たさについての説明になると子どもたちは氷水に手を浸します。こうして体験を通じて学びながら、ガイドと呼ばれる担任教師の語る世界の成り立ちに耳を傾けるのです。
北九州市の住宅街に位置する古民家を改修した「モンテッソーリ・エレメンタリースクール北九州(MEK)」は、この4月に開校しました。西日本で唯一、小学生がモンテッソーリ教育を学べる場として注目されています。
現在、公立小学校に籍を置く1~3年生の4人が通い、2人のガイドがその成長を見守っています。約50平方メートルのフロアには、たくさんの本や教具が揃っており、子どもたちは朝登校すると自らその日の予定を決めて活動します。
色紙で多角形を描いて切り貼りしながら角度を学ぶ子もいれば、別の子は「かけ算ボード」と呼ばれる板に赤いビーズを一つずつ置き、かけ算の原理を理解していきます。
多様な学びを求めて・・・モンテッソーリ教育の現状と課題
「子どもたちの興味や得意な分野は一人ひとり異なります。同じ内容を受動的に学ぶことには疑問を感じていました」と、特例認定NPO法人Scuola dei Bambini(スコーラデバンビーニ)の代表理事である大谷育美さんは語っています。
大谷さんは北九州市内でモンテッソーリ教育を取り入れた保育施設を運営していますが、卒園後に続けて学べる場が少ないことを課題として感じていました。保護者からも「卒園後もモンテッソーリ教育を受けられる場が欲しい」という声が多く寄せられたことを受け、開校に至ったといいます。「画一的な教育に適応できず、不登校などの形で苦しむ子どもたちも増えています。そんな子どもたちの学ぶ権利を守る場をつくれたことを嬉しく思います」と話します。
しかしながら、モンテッソーリ教育の独自性が小学生向け施設の普及を阻んでいる一因となっています。年齢によらないクラス編成や教科を横断する学び、すべてを教えずに助言する存在としての教師など、その多くの特徴が文部科学省の学習指導要領と一致しないため、モンテッソーリ教育を提供する施設で「学校」として認可された例はまだありません。
そのため、公的な補助金を受けることができず、運営資金は授業料や寄付に頼らざるを得ない状況が続いているのです。
広がりを阻む壁は?モンテッソーリ教育の普及と教師不足の現実
モンテッソーリ教育を広める上での大きな障壁の一つに、この教育を実践できる教師が非常に少ないことが挙げられます。6~12歳を対象としたガイドは国内にわずか20人ほどとされており、資格を取得するための講座は日本国内では実施されていません。そのため、海外で他言語を通じて学ばなければならないのが現状です。
一方で、教師同士の交流の場を作ったり、教材の日本語訳に取り組んだり、また「学校」としての認可を目指す動きも首都圏を中心に始まっています。
国際モンテッソーリ協会(本部・オランダ)の国内窓口である「AMI友の会NIPPON」の副理事長である深津高子さんは、「モンテッソーリ教育は、学習指導要領が求める『主体的・対話的で深い学び』と重なる部分が多くあります。すぐに実現するのは難しいかもしれませんが、将来的に『学校』が設立されることを期待しています」と述べています。