ママに読んでほしい!売れている絵本「きみは赤ちゃん」川上未映子 著

本書は、著者が初めての出産と育児を経験した日々を描いたエッセイです。
著者が「オニ」と呼ぶ息子を出産したのは2012年であり、その後2017年には文庫版も刊行されています。
では、なぜ本書はこれほどまでに多くの読者の共感を集め続けているのでしょうか。
東京大学准教授で社会学が専門の藤田結子さんの興味深い講評をご紹介します。
(※2025年11月8日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

出産の記憶がよみがえる共感エッセイ

私自身、著者と同じ年に出産を経験しています。
本書を読み進めるうちに、忘れていたはずの赤ちゃん特有のやわらかな香りや、当時の空気感が鮮やかによみがえりました。
物語は、妊娠検査薬で陽性が確認された場面から始まります。
その後すぐに訪れるつわりの日々。
著者は無痛分娩を選択しますが、「作家なら痛みも経験すべき」といった周囲の無遠慮な声にさらされます。
いわゆる「女性としての役割を全うしてこそ」といった価値観に疲れを感じるという著者の率直な思いには、深く共感させられます。

壮絶な出産と、それでもあふれる幸福感

著者は、指の切断にも匹敵するといわれる激しい痛みを伴う出産に強い不安を抱きながらも、食欲だけは衰えることがありませんでした。
モスバーガーを思いきり楽しもうとしたその瞬間、突然陣痛が訪れます。
予想外の展開で帝王切開となり、その後は意識が揺らぐほどの痛みと眠気の中、夜ごと続く授乳に追われる過酷な日々が始まります。
また、子育ての負担が女性に偏りがちな現実に対し、なぜ男性はそれを自分のこととして捉えにくいのかという疑問を、著者は強く感じています。
それでも、愛おしい我が子「オニ」を腕に抱くと、心の底から幸せを実感できると語っています。

出産と育児のリアルを映す、心に残る一冊

出産のかたちは人それぞれですが、多くの人が共通して経験する道でもあります。
本書は、私にとって忘れがたい記憶が詰まったタイムカプセルのような存在です。
妊娠中や産後に読むと、ママ友と語り合いたくなるような深い共感を覚える内容です。
また、「育児は女性に備わったもの」と安易に考える人に対して、本書は1人の人間が次々と訪れる試練に向き合いながら親へと成長していく過程を、ありありと描き出しています。
鋭い感性と軽やかなユーモアで綴られた本書は、まさに母親としての奮闘記であり、懸命に命を守り育てる女性たちへの力強いメッセージでもあります。
多くの読者に支持されているのは、そのメッセージがしっかりと届いている証だといえるでしょう。