子どもたちが何を考え、心の中で何を大切にしているのかを知りたい・・・。そんな思いを持つ保護者や先生の間で、「子どもニーズカード」というアイテムが口コミで広がっています。
いったいどんなカードで、どうやって使うのでしょうか?
(※2025年2月11日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
言葉で伝える安心感「子どもニーズカード」
このカードセットは、全52枚でかわいらしいイラストが描かれています。
「ありがとう」「イライラしている」などの感情を表す「感情カード」と、「みてほしい」「へいわ」といった願いを示す「ニーズカード」が、それぞれ半数ずつ含まれています。
このカードを使って会話を重ねることで、子どもたちは自分の感情に気づきやすくなります。
また、周囲の人の気持ちを想像する力も育まれるとされています。
カードを使った授業で子どもたちの思いを共有
1月、「子どもニーズカード」の製作者である能美尚子さん(42)=広島県廿日市市=が、大阪府の摂津市立別府小学校に招かれ、1年生3クラスを対象に授業を行いました。
授業では、児童たちが班ごとにカードを並べ、1人ずつ最近の出来事を話しながら、自分の思いを語りました。
周りの子どもたちは、その子が「大切にしていること」に合うカードを選び、感想を伝えていきました。
カードを活用し、感情を言葉で伝える力を育む
担任の廣畑渚紗先生(31)によると、春先は自分の感情をうまく表現できず、周囲に暴言を吐いたり、手が出てしまったりする子どもが多かったそうです。
しかし、道徳や生活の授業でカードを活用しながら、自分の気持ちや願いと向き合い、周りに話を聴いてもらう経験を重ねるうちに、少しずつ言葉で感情を伝えられる子どもが増えていったといいます。
自分の気持ちに気づく大切な時間
この日、3組のある男児は能美さんにドッジボールをしたことを話し、「負けると悔しい」と言いました。
これまで特に負の感情を表現するのが苦手だった子です。
その後、男児はニーズカードの中から「ちからをあわせる」と「あんぜん」を選び、笑顔を見せました。
能美さんは、「大人から押しつけられるのではなく、自分自身で大切にしたいことを見つけてくれたのが何よりうれしいです」と話しています。
自分自身を見つめ直すための学び
能美さんは、娘2人が幼い頃、夫が仕事で忙しい中で「母として、妻としてどうあるべきか」とばかり考え、自分が何者なのかを見失っていたといいます。
そんな時に出会ったのが、米国の臨床心理学者が体系化した「Nonviolent Communication(NVC=非暴力コミュニケーション)」でした。
この手法では、人は他者や自分自身を社会の基準に当てはめ、「正しい」「役に立つ」と評価し、それに当てはまらないものを否定しがちだと指摘しています。
NVCは、そうした考え方から解放され、自分の内面にある「本当に大切にしたい願い(ニーズ)」に目を向けることを促す試みです。
寄り添うことの大切さと気づき
2020年に離婚を経験した際、友人たちがとことん寄り添ってくれたといいます。
「自分自身と向き合うことの大切さ、そして周りが話を聴いてくれることのありがたさを実感しました」と能美さんは振り返ります。
その後、放課後等デイサービスで働く中で、多くの家庭と関わる機会が増えました。
親子や夫婦の間にある「わかりあえなさ」を痛感し、試しにカードを作って職場で使ってみたところ、その効果を実感しました。
印象に残っている出来事があります。
ある小学生の男児に「今日の昼休みは何をしていたの?」と尋ねると、「ぼーっとしていました」と答えました。
能美さんは、彼が「だるい」や「つかれた」といった感情カードを選ぶと思っていましたが、意外にも「よろこびにあふれた」を選んだのです。
「大人はつい、子どもの感情を勝手に決めつけてしまうことがあるんだ」と気づかされた瞬間でした。
「子どもニーズカード」全国へ広がる取り組み
能美さんは、ウェブサイト(QRコード)でカードのデータを無料公開し、2022年からは有料版(3,080円)も販売しています。
どちらもサイトから入手でき、全国の家庭や学校、福祉施設などに広がっています。
有料版はこれまでに2,000組以上が発送されたそうです。
能美さんはこう語ります。
「自分の感情や大切にしたいことに自ら気づき、それを聴いてもらうことで、子どもは安心して過ごせるようになります。カードがその手助けになればうれしいです」。